イギリス政府、リーガルテックへの支援を強化

リーガル業務の在り方が変革を迎えるうえで、政府が介入してくることは必ずしもすべての国で歓迎されるとはいえません。しかしイギリスでは、リーガルテックに対してさらなる直接的支援を行うことで、弁護士たちに積極的な変革を促したい意向を政府が示しており、この動きは非常に歓迎されているようです。

デイビッド・ガウキ(David Gauke)大法官は、最新の構想において、政府の支援のもとで法曹界が主導する「新たなリーガルテクノロジーの強化」を目的とした審議会の設立を発表しました。

今年初頭、首相は、企業と研究者間でのビジネスの促進、並びに、リーガル分野を含むサービス産業における新規テクノロジーの活用支援を目的とした2,000万ポンド規模の資金供給を発表しました。また内務省では、イギリスでのビジネスを検討している起業家向けにスタートアップビザの発行を開始することも発表しており、これによりリーガルテック企業の増大が助長されるでしょう。

7月4日夜、マンションハウス(ロンドン市長公邸)で裁判官らを招いて開催されたロードメイヤー(シティ・オブ・ロンドン市長)の晩餐会において、大法官はスピーチの中で、革新的な新規リーガルテクノロジーの開発とその活用に向けた支援と促進を目的とする専門家による審議会を設立する計画を発表しました。

本審議会の議長は、イングランド・ウェールズ・ローソサエティ(弁護士会)(Law Society of England & Walesの新会長であるクリスティーナ・ブラックローズ(Christina Blacklaws氏です。 ローソサエティでは、リーガル分野に助言を与え、新しいテクノロジーを育む環境の整備に向けて支援を行います。

政府は「240億ポンドの規模を持つイギリスのリーガルサービス分野を今後も成長させ、世界をリードし続ける」ためには、最先端の取り組みを行うことが重要だと認識している旨を明らかにしています。

彼らはさらに、このように述べています。「リーガル分野では、これらの新規テクノロジーの活用が既に始まっています。重大不正捜査局ではAIを活用した文書レビューシステムを導入して1日に2,000件の文書レビューを可能にしており、また、法律事務所などでは契約条件を継続的に監視できる自動デジタル契約システムを採用しています」

デイビッド・ガウキ大法官は、以下のように付け加えました。「私は、世界をリードする我が国のリーガルサービス分野が今後も確実に発展し、イギリスが国際ビジネスの拠点として主要国であり続けるよう取り組むことを決意しています。リーガルテック産業は急成長しており、最先端の取り組みが既に全国に広まりつつあります」。

さらに、彼は次のように述べました。「最も重要なのは、私達が一体となって、これらの新テクノロジーが受け入れられる環境を育成し、もたらされる機会をすべて活用することです。革新的な規制、世界をリードする専門家と金融サービス分野、そしてテクノロジーに関わる豊富な人材といった点から、イギリスはリーガルテックの成長において理想的な場所といえます」。

政府による2,000万ポンド規模の産業戦略に関する詳細はこちら

イギリスはリーガルテックが成長できる理想的な場所である

これらが意味することは?

それでは、ローソサエティの新会長による以下のスピーチから、イギリスの弁護士がどのように物事を捉えているのか、その詳細を見ていきましょう。

ローソサエティはアルゴリズムと倫理の問題に取り組む新たな委員会も運営しています(詳しくはこちら)。また、事務弁護士の業務規制機関である事務弁護士規制局(Solicitors Regulatory Authority)も、リーガルテックの課題を周知させるため全国を巡っています(Artificial Lawyerは、6月にケンブリッジで行なわれた討論会の一つに参加しました)。

イギリス全体、特にイングランドとウェールズの一部において、リーガルAI技術を含むリーガルテックや法律事務所のイノベーションに対し、前例にない組織的関心が寄せられています。この新しいリーガルテックの波を活用するうえで必要な知識を弁護士に体得させることで、リーガル分野を支援し、ひいては社会や経済に広く役立てるという壮大な目標です。

こうした動きの背景には、特にEUからの脱退後、イギリスとりわけロンドンが世界におけるリーガル分野の中心地としての地位を損なわないようにするという目的もあります。ロンドンは、世界のリーガルビジネスにおいてニューヨークに次ぐ最重要拠点の一つです。特に、現在のようにEU脱退によってイギリスが世界から孤立しているかのように見える状況の中、リーガルテックやイノベーションを支援することで、その地位の保全やロンドンの弁護士の競争力向上につながるのであれば、政府は諸手を挙げて支援に賛成するのです。

また、イギリス政府によるリーガル分野への介入形態がどのようなものかという点も注目すべき点です。一例としては有名な「2007年法的サービス法(Legal Services Act 2007)」が挙げられ、これにより弁護士以外の外部の者が法律事務所を所有することや、弁護士や会計士が共同経営者になること、また、法律事務所が株式市場で株式を売り出すことが可能となりました。

同法によりこの分野が根底から変化したわけではありませんが、多少の揺さぶりを与えたことは確かであり、国中の弁護士が自らのビジネスをどのように構築してきたかをより根本から考察するきっかけを作ったといえます。同法はまた、リーガル分野において消費者の権利を擁護する動きを大きく後押しし、実際のところ、消費者からのニーズこそが政府による介入を推進する重要な要素でした。

さらに、たとえ同法がビッグ・フォー(Big Four)と称される四大法律事務所の事業拡大を後押しになったとしても、リーガル産業に大きなダメージを与えたわけではありません。実際のところ、多くの商務弁護士にとって、これほど多く現金を銀行に預けたことは今までなかったでしょう…。これは新しいアイディアと労力の健全な投入だったといえます。

要するに、弁護士たちが政府の介入を好まない国とは異なり、イングランドでは比較的柔軟なアプローチが見られたということです。この点も「幸運」だったといってよいでしょう。

法律における問題点の一つは、「noli me tangere(干渉してはならぬ」という一種のカルト的要素がある故に、結果として保護主義的、内向的、そして利己的になってしまいがちな点です。政府の介入により、法曹界が国家経済や社会全体のニーズなど、より大局的な見地を持つようになりました。

なかには、なぜローソサエティが関与しているのか不思議に思った人もいるかもしれません。しかし、代表機関の役割は、なんら行動を伴わずに議論のみを行うことではなく、変化の推進を手助けすることです。現在の会長はリーガルテックやAIが好影響をもたらすと考えています。

最後に、Artificial Lawyerは、リーガルAIと倫理といった問題を検討する委員会の考えに呆れかえっているはずだとお思いかもしれません。しかし、どのテクノロジーも広く普及するためには、進化を遂げたうえで規制という難所を通過しなければならないのが現実です。長い目で見ると、ローソサエティが倫理面の検討をしているのは好都合で、いずれリーガルAI分野が確固たるものとして確立されるうえでの手助けとなるでしょう。

全体的に見て、こうした介入がなされているということは素晴らしいことです。実際に上手くいくのか、変革をもたらすことができるのかはまだ分かりませんが、こうした努力は称賛に値するものに違いありません。

Source:Artificial Lawyer
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