リーガル業界を牽引するAIトレンド

空中都市ができたり、宇宙旅行をしたり、(宇宙家族ジェットソンのように)空飛ぶ車で通勤したりするには、まだ少し時間がかかるかもしれません。しかし、かつては不可能な領域だと考えられていた概念、つまりAI(人工知能)が、現代の職場環境を変革しようとしています。テクノロジーが進化するにつれ、AIで構築・再設計されたツールやアプリが激増するでしょう。

駐車違反切符の支払いをする必要があるかどうか教えてくれるチャットボット(Chatbot)から、合衆国最高裁判所の判決を予測するアルゴリズムまで、AIをリーガルサービスに連携させて使用するアプリが急増しています。ここでは、リーガル業界におけるAI導入を推進する4つのトレンドを紹介します。

すでに、AIが加速する自動化によって、リーガルサービスの提供の場に混乱が生じている

テクノロジーは、特定のリーガルサービスを「より良く、速く、安く」提供するための推進力になります。企業の法務課や法律事務所の中には、文書のレビューと標準化にAIを活用しているところもあり、将来的にAIに任せられるタスクは増加しています。AIがリーガル市場にインパクトを与え始めてから間もないものの、効率性、リスク回避、レビュー作業における時間と人件費の節約といった点で、AIの影響力には目を見張るものがあります。

AI技術に特に依存するものではありませんが、グローバル化とテクノロジーの進歩は「リーガル・プロセス・アウトソーシング(LPO)」のモデル構築に貢献しました。作業量が多く付加価値の低い“リーガル”事務のコストを大幅に削減するために、LPOは労働仲介による安価な労働力とテクノロジーを利用しています(eディスカバリー、契約書レビュー、ナレッジ管理、コンプライアンス、その他の定型業務など)。LPOは、リーガルサービスの提供において、自動化技術とプロセス管理が法律の専門知識と同様に必要不可欠な要素であることを実証し、一部の反復的な作業においては、費用が高額となる法律事務所から乗り換えさせることに成功したのです。

ビッグデータ分析

ビッグデータを活用した分析には複数の形式があります。記述的、予測的、そして処方的分析があり、それらはすべてリーガル業務の将来に大きな影響を与えます。記述的分析は、自然言語処理や機械学習などに高度な技術を使用して、過去の大量のリーガルデータを取り出し、実用的なインサイトに変換します。法律における記述的分析の主な焦点は、時間の経過とともに変わる法律の傾向を特定し、訴訟関係者の行動を分析することです。弁護士は、この情報を利用して訴訟の結果をより正確に予測し、勝訴に向けて戦略を立て、訴訟をする場合の利益を見積もり、訴訟費用を予測して、示談にするか裁判に持ち込むかといった重要な決断を下すことができるのです。

小売業を営む組織の多くは、予測的分析を利用して様々な角度から分析した顧客プロファイルを作成し、顧客の行動を予測するのに役立てています。幅広いデータソースを活用することで顧客のことを理解し、適切なメッセージを適切なタイミングで、適切な方法を使って送ることができるのです。法律事務所も同様の予測的分析を活用して、裁判官と陪審員団の考えをより深く理解できるようになるでしょう。個々の裁判官のプロフィールや裁判所での行動を調べることで、特定の訴訟で彼らがどのような判断を下すかを予測することが可能になります。新しいリーガルテックの一つ、ジャッジ・アナリティクス(Judge Analytics)により、米国内のあらゆる裁判官に関する詳細なインサイトを提供するプラットフォームが創り出されました。これにより弁護士は、自分が担当する訴訟の裁判官に関する理解を深め、顧客にとって最良の戦略を立てることができます。

予測的分析により、データに基づいて予測された結果に関するインサイトが得られる一方で、処方的分析では実際にアドバイスを提供し、実際のユーザーの判断結果をトラッキングしてその情報を組み込むことで、その後、提供していくアドバイスを継続的に改善させることができます。予測的分析および処方的分析では、常に大量のデータにアクセスしながらアウトプットを構築し、改善する必要があります。技術者は、これらの強力なメソッドの障壁を低くするために、直感的なインターフェイスと汎用性の高いデータ収集に焦点を当てる必要があります。分析や機械学習、自然言語処理技術が進歩するにつれ、これらのテクノロジーはますます法律事務所で日常的に使用されるようになるでしょう。これらがより利用されるようになれば、その価値も加速度的に向上します。こうしたテクノロジーが弁護士や法務チームの信頼できるパートナーとして認められるのも、時間の問題なのです。

リーガル・チャットボット

2016年にスタンフォード大学の学生ジョシュ・ブラウダー(Josh Browder)の“ロボット弁護士”「DoNotPay」が世に出た当時、リーガルコミュニティでは“チャットボット”の存在がほとんど知られていませんでした。それ以来、DoNotPayはロンドンとニューヨークで16万件以上の駐車違反切符への不服申し立ての手助けをしています。チャットボットはリーガル業界で注目を集めているのです。

リーガル・ロボットには睡眠や休暇が不要ですから、顧客にリーガルサービスを提供するためならいつでも要求に応えて24時間365日働きます。適切に使用されれば、弁護士による監督業務を含め、特定の作業プロセスを最適化するのに優れた手段となり、弁護士の時間と費用を節約することができます。

CEOや取締役を務めるゼネラル・カウンセル(GC、法務責任者)や弁護士が増えている

今日では、GCはあらゆるビジネスに関わり、多くのビジネスチームを管理しています。弁護士は真のビジネスパートナーとなり、率先して戦略的にリーガルおよびビジネス上の助言をしています。弁護士が、人材やサイバーセキュリティ、事業開発部門の一部または全体を管理するということは珍しくはありません。惨事を未然に防いだり、収束作業を行ったり、リスクを評価する代わりに、GCはビジネス上の重要な判断を下し、進歩を加速させ、イノベーションをリードします。企業という世界においては、そのイノベーションはテクノロジーの採用に大きく左右されます。

リーガル教育はビジネススクールでの教育のように、ケーススタディ、リーダーシップ訓練、および活発な人脈づくりを行える場を提供する必要があります。将来的に、ロースクール、法律事務所、そして全般的な弁護士訓練アプローチやカリキュラムを変革する必要があります。主要なロースクールの中には、既にテクノロジーをカリキュラムに取り入れ始めたところもあります。法学部の学生にとっては、リーガル教育の先を見通してテクノロジーのリテラシーも備えることが賢い選択だと言えるでしょう。なぜなら、訴訟に関する知識と同じくらいデータ分析能力やリーガル・ソフトウェアを扱える能力も重要だからです。

AIは、リサーチ、文書レビュー、訴訟支援などの単調で反復的な作業を自動化し、作業の効率と精度を向上させることができます。さらに、人間だけでは処理不可能な大量のデータを取り込み、有益な予測を行うこともできるのです。弁護士や、弁護士が提供する戦略的な付加価値に置き換わるものではありませんが、リーガルサービスの提供方法を大きく変化させるでしょう。本当の問題は、AIを活用することで扱うデータを最大化し、サービスを向上させる競合他社に、従来の付加価値を置き換えられてしまう法務課や法律事務所が出てくるということです。 

Source: Law Technology Today
Author: Sherry Askin
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