人口知能(AI)は恐くない ― AIが導く明るい将来

集積するリーガル関連情報は、これまで以上に複雑化し、内容も微妙なニュアンスを含むようになっています。そうした中、コンピューターを使ったリサーチ・分析は、リーガル業務においてオプションというよりも必要条件となってきています。そのため、中にはロボット弁護士にリーガル業務を乗っ取られるのではないかと心配する人もいます。

しかし、リーガル業務に求められる正確さ・的確さのレベルが非常に高いこと、複雑かつ微妙なニュアンスが求められる業務の性質、テクノロジーができる事・できない事への理解の欠如を鑑みると、こうした恐怖はサイエンス・ファクトというよりも、むしろサイエンス・フィクションのように聞こえます。実際のところ、AI(人工知能)はすでに法曹界およびリーガル業務を向上させており、業務をより効率的・効果的にしてくれています。

しかし、リーガル業務に求められる正確さ・的確さのレベルが非常に高いこと、複雑かつ微妙なニュアンスが求められる業務の性質、テクノロジーができる事・できない事への理解の欠如を鑑みると、こうした恐怖はサイエンス・ファクトというよりも、むしろサイエンス・フィクションのように聞こえます。実際のところ、AI(人工知能)はすでに法曹界およびリーガル業務を向上させており、業務をより効率的・効果的にしてくれています。

AIは、弁護士が日々直面する現実的な問題を解決し、質問に答えてくれます。例えば、「こういう訴訟で、こういう申し立ての場合、この裁判官はどんな判決を出すかな?」、「この30ページの契約書のうち実際読む必要があるのはどこ?」、「今リサーチしている問題に関係する情報は、この大量の書類のどこにあるの?」といった質問です。

ごく最近まで、こういった問題に直面した弁護士は、満足いく解答やソリューションを見つけるために単調で時間のかかるデータ集約型の作業をするしかありませんでした。しかし、どんなに優れた専門家よりもAIの方が、より早く、正確に、効率的に、このような作業をこなすことができます。AIの目的は、専門家のスキルを補強することであり、彼らに取って代わることではないのです。

AIの定義:知能という知覚

AIに対する恐れや誇大広告をなくすには、 AIが単一なメソッド、プロセス、あるいはテクノロジーではないということを理解する必要があります。多くの場合、AIとは、人間がコンピューターに与えた知能です。AIの知能を成り立たせる、つまり、“意見”や“結論”をまとめられる機能や製品を作るには、機械学習、ディープ・ラーニング(深層学習)、自然言語処理(NLP)、音声・画像認証など、複数のテクノロジーを組み合わせる必要があります。

例えば、航空会社の予約サイトに使用される“チャットボット(Chatbot)”というプログラムは、簡単なやりとりをするだけで価格・出発時刻・天気などに基づいてフライトを検索してくれます。このようなやり取りを、“知能がある”と捉えることもできますが、実際にはコンピューターのプログラムがマスター・スクリプトに従って、様々なデータベースや専用サブルーティンにアクセスしながらテキストベースの質問への回答を作成しているだけなのです。

音声など、より高度なインターフェイスを取り扱う場合は、この仕組みがさらに複雑になります。データの中から“不可知”のパターンを認識・分析するソフトウェアについても同じことが言えます。つまるところ、こうした高度なテクノロジーを成り立たせるために、専門家が大量のトレーニング・データと特殊なコンピュータープログラムを使って、マスター・スクリプトとサブルーティンを開発・管理しているのです。

高度なツール+関連データ+ドメイン(分野)の知識

真に性能の良いAIとは、その反応が人間のそれと見分けがつかないものです。本当に便利なAIを作るには、“トレーニング・データ”と呼ばれる関連データが大量に必要です。さらに、使えるアウトプットと使えないアウトプットを見分け、繰り返しアルゴリズムを“トレーニング”して改善していくには、人間の思考とその属する組織体に関する深い知識が必要です。そのため、AIが単一の高度なテクノロジーだと考えると誤解を招く恐れがあります。

法曹界には既に、法律、判決理由、規則、訴訟事件一覧表、辞典、法律評論記事、契約書など大量のデータセットが存在します。さらに、企業が毎年発信する情報量も非常に多く、リーガル専門の司書ですら対応しきれないほどのスピードで年々増加しています。ですので、法律の専門家の能力を強化し、急速に増加するデータ量に対応するためは、今まで以上にAIが必要なのです。オンラインのリーガル・リサーチが法曹界に大きな転換をもたらしたように、AIもまた別の転換、少なくとも何らかの変化をもたらそうとしています。

以下に記載するのは、リーガル分野で新しく開発されたAIを活用したソリューションの事例で、AIの複雑さと技術スキルが低い物から順に並べています:

リーガル・リサーチのカスタマイズ

オンラインのリーガル・リサーチが導入され始めた頃は、複雑な検索をするためにドメインとソースに特有のキーワードを使って、リーガル専門の司書にBoolクエリを作ってもらう必要がありました。現在では、AIが活用されることで適切な検索結果をより早く導き出し、専門司書に任せる業務量が削減されています。NLPが使われることで、弁護士は日常的に使う言葉で検索することができるため、複雑な検索ルールや検索ワードを覚える必要がありません。さらにAIは、ユーザーのフィードバックや傾向に基づいて、そのユーザーの質問に一番適した検索結果が何かを“学ぶ”ことができます。それによって、Amazonが閲覧履歴や購入傾向に基づいて関連商品をお勧めするのと似た要領で、ユーザーに対して別の検索方法やソースを提案することもできます。

契約書分析

現在のリーガル分野では、長い契約書をすべて弁護士に読んでもらい、義務を把握し、リスクや不備がないか確認してもらうのに法外な費用がかかる場合があります。しかし、既にAIによって様々な契約条項を認識・分類する作業が楽になってきています。それは、同様の契約書を大量に保管したデータの中から“学ぶ”能力をAIが備えており、作成中の契約書の修正点を提案したり、さらにレビューが必要なセクションや条項を指摘したりすることができるからです。 AIは大量の文書内を検索し、即時のレビュー、更新、変更が必要な契約を特定・指摘することができるので、契約のポートフォリオを全体的に管理・自動作成することにも活用できます。

同様に、M&Aにおけるデューディリジェンスにも適用でき、莫大な費用を削減できるという大きなメリットもあります。デューディリジェンス業務は、データ集約的で単調、かつ、タイトなスケジュールで行なわれることが多く、見落としやエラーの出やすい作業です。

‘知的’対話型インターフェイス

リーガル分野では既に、簡易なルールベースのチャットボットが使われ始めていますが、有意義なトピックや課題への対応にはまだ適用できていません。チャットボットの従兄弟分とも言える“ボイスボット(Voicebot)”は、AIを使って音声をテキストに変換しますが、ラテン語、英語、専門用語が混在する(大体の場合、省略形の)“法律用語(legalese)”のニュアンスを把握するのは困難のようです。AIを困らせる事例としては以下の2つがあげられるでしょう。1つは、バットマン(Batman) vs 署長(Commissioner)(189 F.2d 107 (5th Cir. 1951), cert. denied 342 U.S. 877 (1951)) 、もう1つはデス(Death) vs グレイヴス(Graves) (CGC-06-451316 (San Francisco Super. Ct. filed Apr. 17, 2006) 。膨大なリーガルデータベースをもつ組織は、複雑な法律用語についての機械の理解度を向上させるため、法律用語と通常の用語とを効率的に区別し、特定のリーガルな文脈の中で“理解”できるよう認証APIのトレーニングを行っています。この取り組みは、Alexaに「弁護士のように考えて話しなさい」と教えるようなものです。

数年後には、法律用語(簡略表現も含む)を認識・理解するだけでなく、質問を精緻化して最も関連性の高い回答を作るために、的を絞った質問もできる知的エージェント(媒介)が登場するかもしれません。弁護士が検索インターフェイスとより自然に対話ができ、直感的で双方向の会話ができれば、顧客に対してより正確で的確な回答を提供することができ、時間と費用を節約することができます。

高度なリーガル分析

機械学習やNLPなどのAI技術によって、膨大なデータセットが拡大、充実、編成されて検索が容易になり、意味のあるコンテンツを抽出して即座に使用できるよう、視覚的にも目を引く形で提示されるようになっています。例えば、リーガル分析ツールは数百万ページもの訴訟データを活用して、裁判官、弁護士、当事者、および法的事項に関して従来では到達し得なかったインサイト(見識)を明らかにし、また、戦術的・戦略的な訴訟上の判断をもたらします。また、訴訟ホールドの際に膨大なデータセットをレビューするのにも役立ち、最も関連性の高い文書やカストディアン(証拠保全対象者)を見極めることができます。

さらに、これらのツールを活用すれば、法律事務所や企業内弁護士が安定したビジネスを行い、適切な雇用決定をするために、弁護士や法律事務所それぞれの業績、専門性、経歴などのデータに基づいて判断できるようになるのです。このテクノロジーは急速に進化しており、じき、記述的分析を超えて特定のシナリオにおける判決や訴訟結果を予測したり、さらには特定の種類の判決を自動的に定めたりするようなアプリケーションも出てくるでしょう。それもすべて、法律業務の効率性と生産性を向上させるためなのです。

テキスト要約

AIの基本的なプロセスには“読む”、つまり大量のデータをスキャンしてコンセプトやトピックを抽出する機能が含まれます。文章の中から代表的な部分をただ引き出すのではなく、文章を要約するという能力は、AIの文章処理の中で最も難易度の高い問題と言えます。現状では、コンピューターがテキスト要約を行うと、原文から文章を抽出してまとめることはできても、インサイトを加えることはできないため、弁護士が校正・推敲しなければなりません。最新のディープ・ラーニング技術のおかげで、近い将来、よく構成された偏りのない抄録や要約をコンピューターが作れるようになり、時間と予算に制約のある弁護士が活用できる質の高い概要説明を提供してくれるようになるでしょう。

まとめ

AIが常にベストで、費用対効果の良い解決策とは限りませんが、既に弁護士やそれ以外の職種で、複雑なデータ集約的業務をより速くより正確に行う手助けとなっています。AIを活用すれば、リーガルデータを使って機械をトレーニングし、学習、ヒアリング、言語理解、結果の予測といった認知活動を備えるモデルを開発することができるのです。

これによって弁護士や顧客が得られるベネフィットは非常に大きく、費用対効果の増大、エラーの削減、スムーズなワークフローをもたらし、より良い成果につながるでしょう。AIによって、法律はより近い存在となってすべての人が理解できるようになり、最終的には、より公平な社会を作る手助けとなってくれるのです。

Source: Legaltech News
Authors: Jeff Reihl and Rick McFarland
Original Article: 原文

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