AIがもたらすリーガル・ルネサンス

数年前、リーガル市場でAIの話題が広がりだした当初、弁護士という職がなくなるといった話があちこちでなされました。それから何年も、リーガルAIの話をすればまるでパブロフの犬の条件反射のように、「弁護士という職が終わりを迎えようとしている!今まさに弁護士の終わりが目前に迫っている!」というパニック気味の決まり文句が出てきました。

この傾向は、法律事務所や企業がリーガルAIシステムを実際に活用し始めるまで続き、特にここ2年、ことさら昨年において顕著でした。しかし今、実体験という浄化の光を受け、この使い古されたフレーズは次第に消えつつあります。

いわゆるアンドロイドというものは存在しないし、アシモフ原作の2004年映画「アイ,ロボット」のワンシーンが時代遅れであることは今や明らかです。現実にあったのは、ただのコードだけ、それも優れたコードでした。

AIは、まるでバターの塊をチェーンソーで切るかのように、リーガル産業を「破壊」するのでしょうか?確かに、AIは変化をもたらしましたが、しかし何かを「破壊」する?AIのせいで倒産した法律事務所なんて見たことがありません。近年の大手法律事務所の破綻は、貧弱なマネジメントや雑な会計といった非常に人間らしい問題に原因がありました。つまり、リーガルテックは犯人ではなかったのです。

実際のところ、AIシステムを採用している法律事務所はこの先5年の間に、より大きな収入、より高い利益、そしてより満足度の高いスタッフを獲得するでしょう。

具体的には何をする?

今日、リーガルAIシステムを活用している先進的な法律事務所は世界中に多数存在しています。例えば、デューデリジェンスや賃貸借契約の抜粋、コンプライアンスチェックといった作業で、言語処理(NLP)や機械学習を利用し、複数ページにわたる法律文書を判読したり、その趣旨を読み解いたりしています。

他にも、AIシステムを用いて全国の判例をわずか数秒で検索しベストな訴訟戦略を導き出すといった使い方や、広大な業務範囲にわたる法律情報にAIシステムを投入して、すぐに使える有用な洞察を得るといった活用もされています。

Neota Logic社といった企業によって作られたエキスパートシステムも加えると、もっと多くの事例を挙げることができます。しかもこれは、eディスカバリー(電子証拠開示)ソフトウェア領域への進出がはじまったり、ベンダーがNLPや機械学習をベースにしたプレグティブ・コーディング(予測符号化)システムの提供を開始したりする前の話です。

さらには、企業において、弁護士以外の職員が売買契約などの分野でリーガルAIシステムを活用するといった事例もあり、そのおかげで、社員が、過大な負担を抱えている内勤スタッフのもとに何度も出向くといった必要がなくなった、といったところもでてきています。加えて、リーガルAIシステムのおかげで、法律知識や法律指導の提供を通じて、個人が司法制度を利用できるようになったり、その手助けにより直接弁護士からの助言がなくても法令書式を完成できるようになったということもあります。

ですが、法律業界は終わりを迎えていないどころか、かすり傷さえ負っていません。世界中の弁護士の数は昨年よりも増えており、来年はさらに上回ることでしょう。法律事務所の収入もいまだに増え続けています。社内弁護士によるケースでも外部の事務所を利用するケースでも、クライアントが求めるニーズはますます増大しており、そのうえより斬新でより複雑なニーズとなっています。

もしも、これが法律業界の終わりのはじまりであるなら、私たちは生き残ることができそうです。ドナルド・トランプ大統領や英大衆紙デイリー・メールは司法の独立に対して攻撃を続けていますが、法律産業にとっては、AIよりもこちらのほうがよっぽど大きな脅威だといえるでしょう。

終末的なビジョンで議場の聴衆を欺く、信用ならない未来学者はようやく退場させることができましたが、しかし、いくつかの職が失われるということは間違いないのでしょうか?最低でも1つか2つ?いずれ、一部の弁護士は余分になってしまうのでしょうか?

実際のところ、いずれにせよ現時点で、私たち『Artificial Lawyer』はリーガルAIシステムのせいで職を失ったという話を、まだ一つも耳にしたことがありません。全くのゼロ、一つもない。インタビューした法律事務所はいずれも、そんなことを考えたことすらありませんでした。

しかし、これは非論理的な話でしょうか?もし、ソフトウェアで法律業務を行なうことができ、もしそれが「処理」作業であるとしたら、確かに、弁護士の業務時間は削減できるはず?すなわち、これはゼロサムゲームであり、AIによってX時間かかる法律業務が数分の処理に変わるのなら、数ヵ月の間に弁護士は職を失うことになる?

しかし、このような事態は起こってはいません。

パラリーガルの生産性におけるパラドックス

おそらく、AI嫌いの破滅論者が冷静に考えるには、生産性が高まったからといって自動的にホワイトカラーの労働者、少なくとも弁護士のような高い価値をもつ専門職が終わりを迎えるというわけではない、ということでしょう。

今のところ、白いシャツやブラウスを着て法律事務所で働いている人たちは、迅速にバリューチェーン(価値連鎖)の上位へ昇りつめつつあり、見捨てられることはないでしょう。

私たち『Artificial Lawyer』はその証拠を持っています。リーガルAIシステムを活用している国際的な法律事務所との興味深い対談で、所内の大所帯のパラリーガルチームでは、より高価値の業務を依頼される機会が増えているという話を聞きました。一方、シティ(シティ・オブ・ロンドン)のトップM&Aファームの一つは、AIがデューデリジェンスで活用されることで、アソシエイトたちが、より興味深くそしてより利益の高い業務に集中できると語りました。

パラリーガルの活用促進を行っている事務所において、この高価値な業務のいくつかは、かつてジュニアアソシエイトが担当していたような業務です。今では、一部のアソシエイトは、より稼ぎの良い仕事を担当できるようになりました。

結局のところ、若い人材に年18万ドルも支払い、朝8時から朝3時までスタビロ社製の蛍光ペンで間違いに印をつけさせることが合理的であったかどうかという話です。(そして、いまだにいくつかの法律事務所では、なぜ、社内弁護士はもはや時給制を望まないだろうか…?と疑問に思っています。) 年18万ドルも支払って、蛍光ペンを借りようとしますか?スタビロ社のペンは最高ですが、それでもどうでしょう…。

しかし、ちょっと待ってください。あなたは、そんなわけがないと言うかもしれませんね。なぜなら、私たちは弁護士が終わりを迎えると聞かされて、いやむしろ、断言されてきました。どうして、AIが実際に、弁護士の生産性の向上に貢献するだけでなく、更には彼らのキャリアまで向上させてくれるなんてことがあり得るでしょうか?

そう思っている方にはがっかりさせて申し訳ないですが、しかし、これはもう起きていることなのです。法律の専門家たちにとって、AIは暗黒時代の疫病というよりも、むしろルネサンスの契機なのです。

AIとリーガル・ルネサンス

しかし、このリーガル業界で、その契機を手にすることができる人はいるのでしょうか?この新しいテクノロジーに対し、お金を払うべき人はいるのでしょうか?答えは「はい」であり「いいえ」でもあります。

これこそが、少しおかしな現状の元凶です。現実として、「真の弁護士」になりたい人たち、つまり、クライアントの利益追求に大きな責任を負う人たちには、明るい未来が待っています。これには、昇進して念願の職種に就きたいと思っているパラリーガルたちも含まれます。

一方で、パラリーガル、そしてアソシエイトさえも、さらに敢えて言うなら高給取りのパートナーであっても、ただ職場にやってきて、頭も使わず退屈で反復的な仕事をし、それでいて比較的高い給料を得ている人たちにとっては違う話です。

たとえ弁護士資格を持っていても、真の弁護士であるかどうかを決めるのは自らの行動です。よく「You are what you do.(あなたの行なったことがあなたを決める)」と言いますがまさにそのとおり。もしも、あなたが毎日、一日中単語の下に線を引くだけでしたら、申し訳ないですが…でも、お分かりですよね。

このような人々は、リーガルAIによってまさに危機的状況に立たされています。AIが、より早く、より安く、そしてより高品質にこなせる仕事を、お金を払ってまで誰かにやってもらいたいですか?そんなわけありません。

AIのリサーチシステムがPSL(専門的サポート弁護士)と同じ仕事をこなせるようになっても、PSLは必要とされるでしょうか?さらに言えば、度々申し訳ないですが、PSLは本当にクライアントのアドバイザーとして機能しているでしょうか?彼らは、AIの方が効率的で向いている、本来は弁護士の仕事ではない領域に、自ら向かっていっていないでしょうか?

半分は法律業界、半分はデータウェアハウス業界という半々の世界に身を置く法務アウトソーシング(LPO)のスタッフも、同じく危機的状況にいます。率直に言って、スタビロ社製のペンを使い倒すのに多くの人員を割いているような大手のクライアントでは(ロンドン、ニューヨーク、パリ、はたまたマンチェスターもしくはムンバイのどこにあるとしても)、業務プロセスについて奇妙な捉え方をしています。たぶん、オフショア若しくはニアショアの地でAIシステムを活用しているようなチームはいいですが、全てを人的労働力による反復作業に頼っているチームはどうでしょう?バリュー・プロポジション(価値提案)はどこにあるのでしょうか?

加えて、現在「ロボティック・プロセス・オートメーション(RPA)」と呼ばれているものにより、LPOにおいてコンピュータベースで処理されている多くの作業は、より合理的なプロセスへ集約され、LPOに影響をもたらすことでしょう(注:もちろんこれもロボットには関係ありません)。

但し、もう一度言いますが、たとえ弁護士資格を有していて、無駄のない効率的なコストセンターを基盤としているとしても、無資格の人間でもできる仕事を反復的に行う労働は、真のリーガル業務といえるでしょうか?おそらく、いえないはずです。もし、あなたがまだ資格を有していないとしたら、これがあなたの望む仕事ですか?おそらく、違うでしょう。いずれにせよ、業務プロセスの管理部門を持つ法律事務所の中には、今、無資格のパラリーガルに対して弁護士資格取得のためのサポートを提供しているところもあるという朗報も耳にしました。

究極的には、AIは、弁護士が真の弁護士になれるよう手助けをしてくれるのではないでしょうか?このような真のスキルを持った人々が必要とされる、より複合的な世界が訪れるとしたら、それは素晴らしいことではないでしょうか?

結論

以上をまとめると、AIの到来とはまさに、リーガル産業にとってルネサンスの到来です。AIによって、弁護士は再び真の弁護士となる機会を得、退屈なタスクで一日の時間をすり減らすといったことがなくなるのです。

結局、弁護士の定義とは、社会において何か特別なことをする人、つまり、クライアントの問題を引き受け、その解決を自己の責務とする人ではないでしょうか?これこそが、弁護士という職業が羨まれるほどに守られていて、且つ、厳しく規制されている理由ではないでしょうか?他の事務職と同じであるなら、なぜ、弁護士になるというとこんな大騒ぎになるでしょう?

当然ながら、弁護士という職は、他の事務職とは違います。きっと、AIはこの先数十年にわたって、弁護士にとって最高のものとなることでしょう。

Source: Artificial Lawyer
Author: Richard Tromans
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